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猫の心筋症

心臓病専門外来をご担当いただいております、日本獣医循環器学会認定医の髙智先生より、今回は猫ちゃんの心筋症について以下、ご説明いただきます。

 

本日はネコで最も多く認められる心臓病である心筋症についてお話したいと思います。

 トップ画像は肥大型心筋症により重度に心臓の筋肉(心筋)が分厚くなってしまったネコの心エコー画像です。

 心筋症とは心臓の機能障害を伴う心筋の病気の総称であり、WHO/ISFC(世界保険機構/世界心臓連合)合同委員会により、肥大型心筋症、拘束型心筋症、拡張型心筋症、不整脈源性右室心筋症、分類不能型心筋症の5つに分類されます。その中でもネコで最もよく認められるのが肥大型心筋症です。
 この病気の病態は、肥大した心筋による心室の拡張する機能の低下とそれに伴う心室の内腔の狭小化による心室充満の不良です。また心筋の肥大による心筋の酸素要求量の上昇と血管の圧迫により心筋虚血を生じます。

 メインクーン、ペルシャ、ラグドール、アメリカンショートヘアー、スフィンクス、雑種に多くみられ、メインクーンとラグドールではそれぞれ特定の遺伝子(ミオシン結合タンパクC)の変異により発生することが証明されています。
その中でも、メインクーンやスフィンクスは他の品種と比較して若齢でも発生する可能性があります。

 【症状】

 通常、この病気の初期は無症状です。拡張機能低下による血液の前方拍出量の低下と左室流入量の低下による左心房への血液のうっ滞が生じ、場合によっては僧帽弁の収縮期前方運動による僧帽弁逆流も合併することで、左心房が拡大します。その代償機構が限界に達すると、肺水腫や胸水などのうっ血性心不全症状が現れます。また、左心房の拡大が重症化すると、左心房内に血液のうっ滞が起こり、血栓が形成され動脈血栓塞栓症の原因となり、突然の後ろ足の麻痺や心筋梗塞による突然死、急性腎不全、などを起こす可能性があります。

 肥大型心筋症のネコの 約30-50%の症例は病院への来院時に無症状であるとする報告があります。さらに純血種の猫344頭を対象とした過去の報告において、77%か無症状だったとする報告もあり、症状が出た時にすでに病態がかなり進行した状態である可能性があります。

 

【治療】

 薬による内科的治療がメインとなります。

動脈血栓塞栓症が発症した場合、発症から早期であれば、緊急的に全身麻酔をかけて、バルーンカテーテルなどを使用した血栓の除去を実施することもあります。

 

【先生からのメッセージ】

 ネコでの肥大型心筋症は、見た目の症状が出ない患者さんも多く、しかも、必ずしも心雑音やその他の心音異常を示さないので、たとえ定期的に病院に通われているネコちゃんでも見逃されやすい病気です。そのため、病気が進行することで発症してしまう動脈血栓塞栓症、肺水腫や胸水などが認められる左心不全のような症状が出て、初めて気づかれることも多くあります。

そのため、肥大型心筋症の好発品種のネコちゃんたち、それに当てはまらないネコちゃんたちも、ぜひ一度は心臓の精密検査を受けられることをお勧めします。