病気について

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)

膝(ひざ)のお皿(膝蓋骨)が正常な位置から内側または外側へ外れてしまう病気です。

膝蓋骨脱臼

※図はヒトのイメージ写真です。

膝蓋骨が大腿骨(だいたいこつ)遠位の滑車溝から内側または外側に転移する状態です。 膝蓋骨は溝の上で滑車の役割をしており、膝を屈伸するときに筋肉の力を有効に伝えるという働きをしています。 そのため、膝蓋骨脱臼では脱臼による痛みだけでなく、膝関節がしっかりと使えないなどの機能的な問題も起きてしまいます。

病気になりやすい動物

特に小型犬には多く認められます(10kg以下の犬の約45%)が、中大型犬でも認められます。
以下の犬種は発症が多く認められます。

小型犬:トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア
中・大型犬:柴犬、フラットコーテッド・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー

原因

●先天性・発育性

大腿骨の形成異常や関節の異常などにより、膝蓋骨脱臼が生まれつき、もしくは生後すぐに生じます。早期の脱臼により骨の形成異常が生じた場合には非常に重度な症状を示すことがあります。

●後天性

外傷性ともいわれ、膝に異常な力がかかることによって脱臼が生じます。

●症状

急性の脱臼では痛みを示し、肢(あし)を挙げるような歩行異常が見られることがあります。

慢性の脱臼では、脱臼の重症度や骨変形の程度によって異なり、スキップのような一時的な歩行異常から、持続的な歩行異常、肢を完全に挙げるような歩行異常など様々です。

一般的に脱臼の重症度は以下の4段階に分類されます。

重症度 症状
グレード1 手で脱臼させることができるが、手を離すと元の位置に戻る
グレード2 歩いていて自然に脱臼を起こしてしまう。
脛骨を回転させることにより脱臼・整復させることができる
グレード3 常に脱臼している状態だが、整復可能である
グレード4 常に脱臼している状態で、骨変形を伴い整復不可能である

※一般的にグレードが高くなるほど重症になります。

診断

身体検査により膝蓋骨の脱臼を確認します。他の疾患との鑑別や骨変形の程度、関節炎などの検査ためにレントゲン検査も重要です。

治療

年齢、脱臼の程度、症状や進行具合など様々なことを考慮して治療方針を決める必要がありますのでご相談ください。

・保存療法

痛み止めや運動制限、減量などにより痛みの緩和を目的に行います。しかし、脱臼の根本的な改善ではありませんので注意深い経過観察・管理が必要です。

・外科療法

一般的には、膝蓋骨がしっかりと滑車溝に収まるように溝を形成し、大腿部の筋肉と膝関節の動きが真っ直ぐになるように再建することで脱臼の整復を行います。 これにより膝関節を正常な状態に近づけ、機能的に回復させることが目的です。

予後

手術後は、よりよい回復のために状態に合わせたリハビリを行う必要があります。また、反対側の膝にも膝蓋骨脱臼を持っていることが多く、こちらの経過も注意する必要があります。 現在、いずれの治療方法でも変性性関節炎の進行を完全に抑えることはできないといわれています。そのため症状が改善しても経過観察、関節に負担をかけないような生活が大切です。

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前十字靭帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)

前十字靭帯という膝(ひざ)の靭帯の損傷により、痛みや歩行異常を示す病気です。

前十字靭帯とは、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:膝下の骨の1つ)を結ぶ膝関節の靭帯のひとつです。

前十字靭帯は膝関節を曲げ伸ばしするときに、

・脛骨を前方にずらさない

・膝を過度に伸ばさない

・脛骨を内方にねじらせない

という働きをしています。

そのため前十字靭帯が切れてしまうと膝関節が不安定になり問題が生じます。 大腿骨と脛骨の間には半月板(はんげつばん)があり、膝が動くときに衝撃を吸収してくれる役割をしています。 膝の不安定により半月板を損傷することもあり、その場合には症状がより重度になります。

病気になりやすい動物

一般的には中年齢で発症しやすい病気ですが、大型犬種は若齢(2歳以下)でも生じることがあります。

以下の犬種は発症リスクが高いとされています

小型犬:キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、ヨークシャー・テリア
中・大型犬:柴犬、ウェルシュ・コーギー、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、
フラットコーテッド・レトリーバー、ロット・ワイラー、ニューファンドランド、秋田犬

原因

●外傷性

膝が過剰に伸びたり、ねじれたりする事によって靭帯に異常な力がかかった場合

●変性性

加齢などにより靭帯そのものの強度が低下してしまった場合明らかな外傷もなく突発的に発症することが多いため注意が必要です。 加齢以外にも、ホルモン異常や免疫異常、他の関節疾患(例:膝蓋骨脱臼)などに関連して発症していることがありますので全身的なチェックが必要です。

※人ではほぼ外傷性に発症しますが、犬では単純な外傷性の発症は少なく、多くは変性性に発症します。このため突発的、両側性の発症が多くなります。

症状

急性損傷時には、ほとんど肢(あし)を着かない・完全に上げるといった歩行異常が認められることが多いです。

慢性損傷時には、一般的に肢は着くが十分に力が入っていない程度の歩行異常が認められますが、安静などにより改善していくことが多いです。 しかし、膝関節の不安定状態は続いているため膝関節炎や半月板損傷など進行に伴い歩行異常が強く認められるようになります。

また、両方の前十字靭帯損傷が生じた場合には急に腰が抜けたような症状になる事があります。

診断

年齢、経過などの状態や身体検査により診断を行います。

特殊な整形学的検査としては、脛骨前方引き出し徴候・脛骨圧迫試験といった膝関節の前方への不安定を検査する方法があります。

ただし、慢性症例では膝関節周囲が固まってしまい前方への不安定が不明瞭な場合がありますので、診断には詳細な身体検査が必要となります。

また、診断や他の疾患との鑑別にはレントゲン検査も重要です。

治療

体重の軽い小型犬では保存療法が選択される場合もありますが、多くの場合には外科的な治療が必要となります。

手術方法は様々であり、動物の体格・骨格の特徴や併発疾患に応じて選択されます。

予後

手術後は良好な回復のために、筋肉をしっかりとつける、関節の動く範囲を改善させることを目的としてリハビリを行う必要があります。

現在、どの手術方法を用いても変性性関節炎の進行を完全に抑えることはできないといわれています。また、反対側の肢に同じように発症することも少なくありません。 そのため症状が改善しても経過観察や関節に負担をかけないような生活が大切です。

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レッグ・カルベ・ペルテス病
(大腿骨頭骨頚虚血性壊死症:だいたいこっとうこっけいきょけつせいえししょう)

大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)の先端にある大腿骨頭(だいたいこっとう:股関節のボール状の部分)とそれに繋がる部分(骨頚)が成長に伴い、血流不足による骨壊死(こつえし)を起こす病気。

病気の特徴

・一般的に小型犬(10kg未満)におこる病気です

・病気は成長期に発生し、6~11ヶ月齢が一番多い(全体としては3~13ヶ月齢)

・好発犬種 トイ・プードル、ウエストハイランドホワイトテリア、ケアーン・テリア、
マンチェスター・テリア、ヨークシャー・テリア

・雌雄関わらず発症します。

・両足での発症は12~16.5%といわれています。

原因

現在はっきりとした原因は分かっていません。しかし、遺伝的原因、血管圧迫による血流障害、ホルモン異常、解剖学的異常などが考えられています。

病状

最初の徴候としては過敏症状(お尻・股のあたりを気にする、触られるのを嫌がるなど)程度ですが、進行に伴い痛みが強くなると歩様異常、ジャンプしなくなる、 段差が上りにくいなどの症状が生じ、最終的に完全に足を挙げて歩行するようになります。病気の進行には骨壊死(非炎症生無菌性壊死)に伴う 関節軟骨の障害とそれに続く骨変形による関節の不安定と変形性関節症が関連しており、通常は1~2ヶ月かけて進行します。 しかし、骨壊死により骨が弱くなった場所に骨折を起こした場合などには突然に痛みを示すことがあります。

診断

年齢、経過などの状態また身体検査(触診)に加え、レントゲン検査により診断を行います。

身体検査では股関節の伸展可動域制限(後ろに伸びなくなる)、伸展時に痛みを示すことが多いです。

レントゲン検査では骨の異常(骨が薄くなったり、変形したりする)、筋肉量の低下が認められる事が多く、骨折を起こしている場合には骨折線が見える事もあります。 非常に軽度、初期であればレントゲン上の所見が乏しいことがあり、経過観察もしくは必要に応じてCT検査で診断をつける場合もあります。

治療

大腿骨頭骨頚の変形が強く、痛みが激しい場合、また内科的治療(薬・安静での治療)の反応に乏しい場合には手術が必要となります。 一般的な手術は、疼痛の原因となる大腿骨頭骨頚を除去する方法で大腿骨頭骨頚切除関節形成術と呼ばれる方法です。 手術後の関節は筋肉などの周りの組織が支えることになりますので、特に手術前に筋肉量が低下している場合にはより長期間のリハビリが必要となります。 運動機能としては、日常生活に問題ない状態にまで回復します。完全な運動機能を期待される場合には、股関節全置換術(人工関節)の手術選択もあります(※当院では行っておりません)。

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