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FIPのちゃんとした治療を~経口GS441524の治療

経口GS441524でFIP(猫伝染性腹膜炎)の治療が可能となりました!!
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どこにも出ていないのでおそらく日本では初めてだと思いますが、当院でFIP(猫伝染性腹膜炎)の猫ちゃんに経口GS441524での治療が可能になりました。

FIPの治療について(GS441524について)はこちら
https://kami-ah.com/blog/archives/94

●FIPのこれまでの治療について
FIPの治療にGS441524の薬が使用できるようになったことがどれだけ画期的なこと、かつ猫ちゃんや飼い主様に大きなメリットがあるのかを知っていただくために、まずは簡単いこれまでのFIP治療についてお話しします。

FIPは元々不治の病で、発症してしまうと治療手立てのない病気として知られていました。
そんな中、Dr.Pedersen(UCdavisの名誉教授)から2018年にGC376、2019年にGS441524とFIP治療に可能性を示す報告がされました。
しかしながら、特許や企業の考え方の問題で即座に製品として販売される状況ではありませんでした。
そのような状況下で登場してきたのがMutian(Xperchonn)などのブラックマーケット製品です。

Mutian(Xperchonn)など現在治療として使用されている製品はいわゆるGS類似製品と呼ばれるもので、成分がGS441524に似ているようなものという製品です。あくまで『製品』と呼ぶのは薬ではないからです。
いずれも有効成分の効果についての明確なデータはなく、その安全性や副作用データはもちろんありませんし、その成分保証もなされていません。当然ながら薬と呼ぶには一定の有効成分や品質の保証が必要になります(その分承認などに時間がかかるのです)。
FIPに有効な成分はなんとなくわかってきたけど医薬品としてのGS441524自体を入手できない、ただ目の前に苦しんでいる猫がいるとなるとなんか効く可能性があるものにすがりたくなる気持ちはとてもわかります。そのものが正しいかどうかは別にして自分の家族が助かるならなんだってしたくなるという思いはよくわかりますので、私としても上記の内容を説明した上で飼い主の責任によるものとしてMutian(Xperchonn)を使用してきました。それによってたくさんの猫ちゃんが救われたのは事実です。それを否定するつもりは毛頭ありませんが、医学的に正しい選択なのかどうかは常に疑問をもっていました。
そのため他に使える承認された医薬品がないかを常に考え使用もしてきましたが、なかなか有効なものは見つかっていませんでした。
 

●経口GS441524の入手に至る経緯
その後オーストラリアでレムデシビル・経口GS441524が獣医療で使用されるようになり期待していましたが、現在でも日本国内での入手はできません。
GS441524の試薬は手に入る可能性がありますが、基本的に実験的な使用目的のみでの購入であり、動物病院への入荷も制限される可能性が高いと考えています(実際一度購入しましたが、その後購入を断られました。その不安定な供給のため私は使用を断念しました)。
GS試薬.JPG 使われなかった試薬

昨年イギリスで経口GS441524が購入可能となり、その報告を含めたISFMの記事の著者に日本での入手もなんとかならないかの思いのなかでやりとりをしていました。そこでメーカーの輸入窓口があることを教えてもらいその後メーカーと直接やりとりし、日本でも農林水産省に確認し動物用医薬品として輸入できるようになりました。

GS441524は、海外(オーストラリア、イギリス)では以前から使用されており、レムデシビルと合わせてFIP治療のプロトコールが確立されつつあります(国際猫医学会:ISFMでもそのプロトコールが紹介されています)。
すでにオーストラリアでは2020年10月〜2021年11月で500頭ほどの治療実績があるようです。
ISFMプロトコールの記事.png

海外の調剤薬局が動物用製品として経口GS441524と濃厚レムデシビルを販売しており、今回それを動物用医薬品として輸入しているので正式に治療薬として使用できます。

レムデシビルについては確認中ですがこちらも輸入できれば重症例に対する大きな武器になります(人とちがい、猫では静脈注射と皮下注射もできます。GS441524より注射時の痛みが少ないとの話です)。こちらも人用ではなく動物用医薬品として販売されており、人のものに比べて濃度が濃いため皮下注射の量を少なくすることができるメリットもあります。

こうして複数の権威ある先生方のお知恵をかり、様々な確認を経てちゃんとした治療薬が入手可能となりました。

●今後の当院でのFIP治療について
今後は入手できる限り経口GS441524以外を使うつもりはありません(もちろん日本国内や海外でもっといい承認薬が出れば変更します)。やはりコストは高いですが、Mutian(Xperchonn)よりは安いので使わない理由はありません。
Mutianのような再発時の無料サポートや割引などはもちろんありませんが、別の薬による治療でもそもそもあり得ないサポートなのでそれは医薬品を使うというメリットを考えていただくことが大切かと思います。

現在、医薬品として経口GS441524と呼べるものは世界的にもこれしかありません。獣医師でも勘違いされているのか『GS441524類似製品』を『GS』と呼び、あたかも経口GS441224と思わせるかのような内容が書かれているので注意が必要です。

類似製品はたまたまその成分がGS441524に似ていただけのものです。むしろメーカー自体がそのように言っているはずです(GS441524ですというと特許侵害になるからです)。加えて、あくまで類似製品であり薬ではありません。成分や品質の保証をしない製品(たまたまGS441524に似ていて、たまたまFIPに効くものであった)だからこそ、これほどまでに瞬時に世界的に広がったのです。それはある意味功績(多くの猫を救った)でもあるのですが、GS441524と違う成分で効果があると謳うのであれば医薬品としての承認をとればいいのにその動きがないのが答えでしょう。
今回輸入するにあたりやりとりする中で、日本の輸入システムも十分にわかっていなかったため以前に日本から購入した獣医師はいないと考えられます。おそらく日本人では初めての契約だと思いますので、現時点で日本国内で経口GS441524と謳い使用されているものは類似製品だということです。

●その他の治療選択について
その他の医薬品選択肢として、最近だとモルヌピラビルが使用されているケースも見られます。
私もその選択肢も考えていたのですが、やはりまだまだわかっていないことが多いので中止しました。
というのも用量やプロトコールからまだあまりわかっていないからです。
使用されている状況をみても治験として使用されているようです。
(とはいえ、今回の経口GS441524が手に入らなければ私も進めていたかもしません)

モルヌピラビルの使用も検討していたので用量については直接Dr.Pedersenに聞いてみましたが、はっきりとした答えはもらえませんでした。プロトコールについては『モルヌピラビルがGSと治療プロトコールが違うと言える理由はない』と言われたので84日が現時点での適正なんだと思いますが、やはり長期使用の安全性についても検討がなされていないため断念しました。データをみる限り細胞障害性もGS441524に比べて高い可能性がありそうに思えます。
現時点では用量や毒性もはっきりしていないため治験として臨床的に使用することにも不安を感じます。

現時点でのモルヌピラビルの位置付けとしてはDr.PedersenもGSやGCが効かない場合の選択肢としています。私もその位置付けで考えていますので、ひとまず手元には置いています。
https://www.zenbycat.org/blog/alternative-treatments-for-cats-with-fip-and-natural-or-acquired-resistance-to-gs-441524
(びっくりするかもしれませんが、どーんと出てくる人がDr.Pedersenです)

モヌルピラビル.JPG モルヌピラビル

またモルヌピラビルはすでにジェネリックが出ており、費用が安いのも魅力です(GS441524治療の1/10以下で出来そうです)。ただ、前述のISFMプロトコールにレムデシビル、GS441524を用いた費用制限がある場合のプロトコールも記載されているので、まずはそれに従おうと思っています。その場合は抗ウイルス薬のメフロキンを使用しますが、メフロキンは日本国内で販売されているので入手可能です。

報告ではGS441524とモルヌピラビルの併用による相乗効果や薬剤耐性軽減の可能性も示唆しており、そのようなデータが出てくればモヌルピラビルはより良い選択肢になる可能性もあります。プロトコールやデータのアップデートが待たれます。

●最後に
いずれにしても現時点で医薬品として世界的にコンセンサスの得られている治療は経口GS441524とレムデシビルであり、そのプロトコールにのっとった治療が可能である以上、獣医師としてその選択肢から考えるべきだと考えています。
現時点での選択肢はいずれもGS441524が手に入らないからという前提に成り立っています。それを崩す選択肢が生まれたということです。

もちろん個々の症例にあった選択肢は必要だと思います(投薬できるか、注射できるか、費用面など)。医薬品でのFIP治療をご希望の場合は当院までご連絡ください。なお、経口GS441524の数に限りがありますので、当院に直接来院可能な患者様を対象とさせていただきます。
また電話でのお問い合わせに関しては対応できませんので、希望の方はメールもしくはHPの問い合わせよりご連絡ください。
*猫ちゃんの診断や状態によって用量に違いがあるため費用に関してだけの問い合わせにはお答えしかねます。