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歯周病と虫歯

人間である私達は、小さい頃から食事のあとは、歯みがきをしましょうとよく言われてきたと思います。「虫歯予防」「口臭予防」「老齢になったときにも歯を残すため」などが主な理由になると思います。 8020運動と言って、80歳で20本の自分の歯を残そうという考えも広まってきています。

【犬・猫に歯みがきが必要な理由】

人間である私達は、小さい頃から食事のあとは、歯みがきをしましょうとよく言われてきたと思います。「虫歯予防」「口臭予防」「老齢になったときにも歯を残すため」などが主な理由になると思います。 8020運動と言って、80歳で20本の自分の歯を残そうという考えも広まってきています。

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それでは、犬・猫ではどうでしょうか。もちろん歯みがきは今日からでもスタートしていただきたいくらい重要です。
しかし、実は虫歯は犬ではほとんど見られることがなく、猫では虫歯を呈した症例の報告が今のところありません。
虫歯はほとんどない代わりに、3歳以上の約8割の犬・猫が歯周病に罹患していると言われています。また、何も予防や処置をしなければ、将来的にほぼ100%歯周病にかかるリスクがあると言われています。
歯周病で歯周組織に炎症が起こっていると、口臭はもちろんですが、犬や猫が痛みのせいで食欲不振になったり、 内臓の疾患(心臓疾患、腎臓疾患、肝臓疾患など)に影響したり、様々な問題を引き起こします。実際に日本獣医循環器学会でも、 口腔内と僧帽弁(心臓の弁)で同じ歯周病原細菌のDNAが増幅が確認されたことにより、歯周病細菌が犬の僧帽弁閉鎖不全症(心臓病)の発症に関連している可能性が示唆されたという発表がありました。 単なる口の中の問題では終わらないことがあります。そう言った点からも、犬や猫でも歯みがきを始めていただきたいのです。

【虫歯(う蝕)について】

犬・猫に虫歯が少ない(見られない)理由としては、下記のことが例としてあげられます。

1.犬・猫ではほとんどの歯が薄くとがっているので、虫歯菌がたまりにくい。
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人の臼歯(平らな面になっているため、虫歯菌がたまりやすい)
2.犬・猫では、唾液にデンプンを分解して低分子の糖に変える酵素であるアミラーゼが含まれない、または少ないことから、虫歯が起こりにくい。 (虫歯菌は糖を代謝して酸をつくり、この酸が歯の成分であるカルシウムやリンを溶かして虫歯を進行させます。)
3.犬・猫では口腔内のpH(ペーハー:酸度)がアルカリ性で、酸性を好む虫歯菌が繁殖しにくい。(人の口腔内はpH6.5~7の弱酸性)

犬の場合、口移しで食べ物を与えたり、ヒトの甘いおやつや食事を与えることも、虫歯の一因と考えられています。犬の上顎第一後臼歯の咬合面に認められることが多いようです。 栄養学的な点や人獣共通感染症など衛生的な観点からも勧められないため、注意しましょう。

【歯周病について】

歯周病は、犬・猫で最も多く見られる口腔内疾患と言われています。
虫歯が歯の表面から起こる病気であるのに対し、歯周病は、歯の周りの組織(歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨)に影響を及ぼすため、悪化すると最終的に歯が抜け落ちることになります。
歯周病は進行の程度により「歯肉炎」「歯周炎」の2段階に分けられます。

原因

歯垢中の細菌による慢性的な感染症。
(Porphyromonas gulae、Porphyromonas salivosa、スピロヘータ―など20数種類の歯周病細菌による)
※通常口腔内には500~800種類の細菌が存在し、1g歯垢中には1億個の細菌がいるとされていますが、生理的な防御機構のおかげで、通常は健康を保つことができます。
ただし、この生理的防御機構が破たんすることで、歯周病は進行していきます。

この防御機構に影響を及ぼす因子としては、
・超小型犬や・小型犬では、顎が小さく歯と歯のすきまが狭いことなどが原因で歯垢がたまりやすい(日本では飼育されている犬の約8割が超小型犬、小型犬であることから、歯周病にかかる犬が絶対的に多くなる)
・犬・猫の高齢化による免疫力の低下
・他の基礎疾患などの影響で免疫力の低下
などが挙げられます。

歯周病の進行

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◆歯肉炎:歯垢中の細菌が歯肉の辺縁に接することで歯肉に炎症を引き起こします。
◆歯周炎:歯垢中の細菌がさらに自らに有利な環境を整え活発になり、様々な炎症性の目ディエーターやサイトカインの増加により、歯周組織まで炎症を起こします。 また、破骨細胞が活性化されることで骨吸収が起こり、最終的には歯が脱落します。

また、口の中だけの問題で終わらず、全身性疾患にも影響を及ぼすことが報告されています。
・内臓の疾患(心臓疾患、腎臓疾患、肝臓疾患など)への影響
・歯瘻(しろう):歯周病細菌が罹患歯根の周辺組織を破壊し、顔の皮膚表面や鼻腔内に向かって瘻管(ろうかん)を作り、皮膚表面に穴をあけたり、 鼻腔粘膜に穴をあけて鼻出血様の症状を呈します。また、歯肉表面に瘻管を形成することもあります。
・下顎骨骨折:特に超小型犬や小型犬では下顎(したあご)の骨の厚みと、歯根の長さが約7:3とほぼ同じくらいなので、歯周病細菌に冒されることで、 下顎骨をとかして、下顎骨骨折を引き起こしやすいと言われています。

歯周病予防

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歯周病に影響を及ぼすのは細菌などの塊である歯垢です。
この歯垢はヒトでは約21日かけて、ミネラル等の沈着により硬い歯石に変わりますが、犬の場合はたった3~5日で、猫では約7日間で歯石に変わります。
歯石が歯の表面に付着すると、歯が粗くなり更に歯垢が付着しやすい状況になるという悪循環に陥ります。

一度歯石になってしまうと、全身麻酔下でのスケーリングでしか歯石を落とすことはできません。そのために、やわらかい歯垢のうちに、歯磨きなどで予防する必要があります。

※無麻酔下でのスケーリングはお勧めできません。
理由:
・動く犬や猫を無理矢理押さえてスケーリングすることは、犬・猫にとってとても怖い体験として記憶させてしまう可能性があり、その後の飼い主様との歯磨き習慣がうまくいかなくなる場合がある。
・犬・猫が動くことで、歯肉などの歯周組織に傷をつけてしまう可能性がある。
・歯の表面のエナメル質を傷つけてしまう可能性がありその後歯垢を付着させやすい環境に変えてしまう可能性がある。
・スケーリングは単純に歯の表面を綺麗にすることが目的ではありません。歯周ポケットの掃除が出来ないと、歯周病の治療にはならない。
上記理由から、当院では行いません。
日本小動物歯科研究会のホームページでも無麻酔下でのスケーリングは推奨されておらず、この考えが獣医歯科学では常識になってきています。

歯磨きのゴールデンスタンダードは“歯ブラシ”の活用です。
上手に慣らして使うことで、歯肉溝の隙間の歯垢を落とし、歯の表面も綺麗に汚れを落とします。

歯磨きに推奨されるグッズなど
・歯ブラシ
・ガーゼ
・オーラルケアおやつ
・オーラルケアおもちゃ
・歯ブラシ
・ガーゼ
・オーラルケアおやつ

 

犬も猫も一度嫌な思いをされるとなかなか二度目のチャレンジをさせてくれません。子犬・子猫の時期から歯磨き習慣を始めることが重要です。

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歯ブラシを使用の際は、水や「犬・猫用」の歯磨きペースト、おいしい犬・猫用のスープなどをつけて磨いてあげると、良いでしょう。

また、オーラルケアガムなどを選ぶ際は、「VOHC」マークを目印にされることをお勧めします。
VOHCとは、Veterinary Oral Health Council(米国獣医口腔衛生協議会)の略で、犬や猫に本当に効果のある製品かどうかを第三者的な立場で認定する機関です。
アメリカやヨーロッパ、オーストラリアなど、多くの国で認知されています。

参考)
臨床のための小動物歯科
日本小動物歯科研究会(http://www.sa-dentalsociety.com/
アニコム白書2013
http://www.vohc.org/