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医薬品によるFIP治療

FIPの治療についてブログに掲載してから、当院で使用している治療薬(治療法)が、他のものと何が違のか?というお問い合わせを多数いただいております。

確かにインターネットなどで「FIP 治療薬」や「GS−441524 FIP」と検索するとたくさんの情報が見つかります。SNSでも色々な情報が広がっており、何が正しいのか?何が違うのか?など混乱してしまう状況です。お問い合わせいただいてもなかなか口頭でお伝えするのは難しい内容なので一度整理してみたいと思います。

以下、話が長くなりますので、興味のある方はご覧ください。

1.“薬”なのか“薬っぽく売られているモノ”なのか
前のブログ記事でも書いているのですが、当院での治療薬と、他のものとの違いとして、後者はそもそも“薬”ですか?ということです。

薬(すなわち医薬品)という言葉を使用するにあたっては、薬として認められたものであるということが大前提です。
勝手にこれは薬です、とは言えないように、日本国内では、医薬品は薬機法で規定されていて開発・承認・製造・流通・使用に全て規定がありその製品の品質・有効性・安全性・流通に至るまで保証されています。逆にいうとそれらの規定が守られていないものは医薬品とは呼べません。
また、国外においても、要件は国による違いはあっても同様に多くの国が品質や有効性、安全性、流通に規制やルールを設けています。

では、現在FIP治療として用いられている製品がどの程度規定に従った医薬品に該当しているモノなのでしょうか。これを見分ける方法としては、以下のことがあげられます。

・その製品の製造、承認されている国がわかりますか?
そもそも海外かから個人輸入をしているのであれば、その国から送られてくるはずなので、わからないというのはおかしいです。FIP治療に用いるモノの中には個人輸入と称して日本国内から送られてくるケースがありますが、それは個人輸入とは呼びません。

・その製品の有効成分はなんですか?
有効成分が不明なのに効果や用量がわかるわけがありません。これに関してはホームページやどこかにチラッと書かれていたりするものもありますが、医薬成分は実際の製品に表示義務があるため医薬品であれば明記されているはずです。書かれていない、書けないというのはおかしいことなのです。

・その製品には有効成分はどの程度含まれていますか?
薬には適正量があります。その用量で有効性や安全性が確認されているからです。薬を使う場合には体重などの個体差を考慮して量を計算し、その子にあった適正量を使用しますので、有効成分がどのぐらい含まれているかがわからないとどれだけ使ったらいいかわかりません。これも医薬成分であれば表示義務があります。
体重あたりこれだけの量を使ってくださいと書いているものもありますが、含有量を書けばどの体重でも調整できるはずなのに回りくどいことをするのは何故でしょうか。やはり表示の義務があるものを書けないというのはおかしなことなのです。

 

・品質の保証はされていますか?
有効成分や含有量が分かったとしてもそれが全ての製品にしっかり入っているかどうかも大切です。当然ながら医薬品であれば一定の品質が保証されなくてはなりません。品質は当然製造販売会社が保証するのですが、そこを更に監視する監視元があるかどうかです。いずれかで承認された医薬品であれば当然国がその監視元となるため、製造販売会社もしっかりと品質管理を行います。

・それはどこから送られてきますか?
海外の承認薬(ちゃんとしたプロセスを踏んで承認された医薬品)であれば、その製造国から輸入します。そして国内輸入する際には、医薬品であれば輸入確認証が原則必要です。獣医師であれば動物用医薬品は例外がありますが、個人での輸入では関係なく必要となります。そのような手続きなく、国内から医薬品から入手できることはあり得ません。それができるとしたら、その製品が医薬品ではないからです。

現状の日本でFIPの治療にと使われている製品で上記を満たしている、「医薬品」はどれくらいあるでしょうか。
私の知る限りでは多くありません。多くの製品は有効成分が不明、記載なし、含有量が不明・記載なしであったり、日本国内から錠剤や駐車がそのまま輸送されてきたりします。

いずれも医薬品ではあり得ないことなので、薬と呼んではいけないモノなのです。
したがって、位置付けとして、そういったものは、無承認・無許可医薬品、健康食品、サプリメントと呼ばれるものになると思います。

また、よく混同されますが、国内未承認薬と呼ばれるものにも該当しません。(これは、2を読んでください。)
医薬品でなくても、効果ありますよね?と思われる方もいらっしゃると思います。
確かに効果はありますが、効果があるということは何らか有効成分は含まれているんです。きっと。
でも病気の治療に用いるほどの有効成分が含まれているのであれば、本来は医薬品でないとおかしいとおもいませんか?

有効成分がしっかりしていて、含有量や品質に問題がなければ医薬品になれるはずなのにいつまでも健康食品のような位置付けにしていることは、できない、しないできない理由があるとしか思えません。


2.それはほんとに国内未承認薬ですか?
上記のような不明確なルートで入手されるFIP治療に用いられている製品について、よく、これは国内未承認薬です。という使い勝手の良い言葉で説明されていることが多く見受けられます。多くの製品がそのように理解されていると思います。

実際に現時点で日本国内にFIPの治療薬として認可されているものはありませんので、現在治療として用いられているものは全て国内未承認です。

未承認だから高いんだ、未承認だから不安だ、なんで承認されないんだという意見も散見されますが、未承認薬による治療は獣医療ではFIPに限らず腫瘍などでも昔から行われており未承認だから悪いなんてことは全くありません。むしろ日本国内の薬が高すぎるために、海外から安い未承認薬を取り寄せて使うなんてこともあります。実際にFIPで考えても先発品のベクルリー(レムデシビル)が承認されたとして、これで治療すると薬価から考えて84日間で少なくとも300万円はかかります。そう考えると未承認でもいい気がしませんか?

なので承認・未承認というのは日本国内で認められているかどうかの話であって、輸入が大変だとかそういうことはあるにせよ治療という点においては対して問題ではありません。
薬と呼べないものでもなんとなく未承認薬と呼び、あたかも医薬品であるかのように使用されていることが問題であると思います。

 

私は獣医師として治すならちゃんとした医薬品で治したいと思っていました。それが猫ちゃんのためでも、ご家族のためでも、獣医療のためでもあると思うからです。
努力の甲斐もありいくつか医薬品の入手が可能となったため、当院では医薬品による治療しか行っておりません。その中でもご家族の希望に応じた選択肢をご提示できるようにもなってきました。

獣医師として治療を行うことは、その結果に責任を持つことが必要であると思っています。
上手く治療できた場合には何をどのくらい使用したから治ったのか、治療反応が不十分出会った場合に何が効かなくて、薬が足りなかったためなのか、合わなかったのかなど検討できなければ医療としての質は高まりません。
有効成分もはっきりわからない、内容量も定かではないでは責任も取れず、治ったか、治らなかったかだけでは治療結果の検討もできません。
それは獣医師としてあまりにも無責任であり、未来の獣医療のためにも猫ちゃんのためにもならないと思っています。

 

医薬品のため個人輸入で大量に確保することは難しく受け入れ数には限りがありますが、可能な限り対応いたしますのでご希望の方はこちらをご確認の上お問い合わせください。

2022/10/13